このタイトル「しせいのおとこ」と読む。
連続している物語。
・「ぼくのカタギ君」
幼馴染みの潟木と久保田。大人になって再会する。潟木は元ボクサーからヤクザへと、着々と道を踏み外していた。しかし久保田にも潟木には言えない秘密があり。
・「ラナンキュラスの犬」
潟木の「上司」武藤は、先代の三代目鶴子の遺言で、その息子を守る。彼は鶴子に生き写しだった。
・「狂い鮫とシンデレラ」
武藤の後釜に座った埜上。虚無を絵に書いたような男だった。追い詰められる久保田だが。
・「みんなの唄」 逃げ出した、武藤と有馬の二人の夢。出所した潟木を迎えにいく久保田。
別作品の短篇で「はるのこい」「ゆめのあんない」
大学生の安奈光久。起きたら春野の生霊がカラダに乗っていた。安奈は春野が好きなのだ。その想いが春野を呼び寄せてしまったのか。
ディープな作品。絵はますますアートに。
表紙は「琳派」といえる。それだけでも好み。
重いけど、すごい、上手い。唸る。
噂になっていた作品だけある。
病んでいるのは久保田か、それともこの世界なのか。
切な過ぎて、心から抜けない。
正義も悪も、実は同義。そして愛と憎しみも……。
それがこの重さなのだ。
刺青で、その生の苦しみを美に昇華していく。
最後の別話の短篇。良い話だなあ。
良くありそうな設定なのだ、しかしそれを突き抜けるのが、この作家さんの擬態的体感覚表現の面白さで、それが体感出来ること。
かつて、鹿乃しうこが初田名義の頃で、かなり初期に実験していた気がするが、それをすっかり突き抜けてしまった感がある。
二人の名前、アンナとハルナって何かのオマージュだろうか? 気になる。
この単行本、秀逸。
この作家さん、ギャグテイストであっても、どこかピリッと痛みが走って、切ないのだ。
うーん、すごい。
2009/1/21
《こんなふうにおススメ》
この作家さんの、今のところの代表作になるんだと思います。
めちゃおススメ。
リピートすると面白さが5倍増し。
ラベル:阿仁谷ユイジ
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